けれども、売買契約の当事者である商人は、危険移転や費用負担に関心を持つことはあっても、所有権移転について殆ど注意を払わないことが多いので、契約の条項、当事者の行為および四囲の状況を考慮しても、当事者の意思を確定できない場合が多いのです。そこで、このような場合に備えて、英国物品売買法には、5つの推定規則が規定されており、これに従って所有権の移転有無が判断されます(SGA §18 Rules 1〜5)。これには、特定物の場合と不特定物の場合がありますが、貿易取引は、不特定物の売買契約ですから、次のルールが適用されます。すなわち、「不特定物の売買契約の場合、契約に合致した種類の物品が引渡しうる状態(in a deliverable state)におかれ、かつ無条件にて契約に充当されたとき、当該物品の所有権は売主から買主に移転する」(SGA §18 Rule5(1))。例えば、FOB契約の場合、買主手配の本船に無条件で物品が船積みされると、そのとき所有権が買主に移転するのです。
所有権移転の効果
英国物品売買法では、物品の滅失・損傷の危険は、原則として、所有権に伴って移転するのであり、占有(possession)移転の有無とは関係がないと規定しています(SGA §20)。また、物品が引渡しうる状態におかれるまで、売主は物品に係る一切の費用を負担しなければならないのです(SGA §29(6)) 。例えば、「2000年インコタームズ」は、売主・買主の義務をそれぞれ10項目に分けて規定しています。インコタームズでは、具体的に所有権移転の問題には一切言及していませんが、第4項で、売主の引渡提供と買主の引渡受理について規定しています。他に別段の合意がなければ、売主の引渡提供が完了したときに、所有権が買主に移転したとみることができます。そこで、この規定に従って、第5項で、売主と買主がそれぞれ負担すべき危険について、また第6項では、各当事者が負担する最小限の費用について規定しています。
売主の物品引渡と買主の代金支払は、原則として、同時履行条件であると規定されています(SGA §27および§28;UCC §2-310および§2-507)。すなわち、売主は物品の占有移転の準備を行い、進んでこれを移転するとき、これと引換えに代金支払をうけることができ、買主は代金支払の準備を行い、進んで支払うときに、これと引換えに物品引渡をうけることができるのです。ここでいう物品引渡は、物品の占有移転を意味します。同時履行条件には、物品の占有移転と引換えに行われる代金支払と、物品(の権利)を表彰する書類の占有移転と引換え行われる代金支払とがあります。前者を現実的引渡、後者を象徴的引渡と呼びます。例えば、FOB契約は現実的引渡条件、CIF契約は象徴的引渡条件です。前払い・後払いの特約があるときは、これに従って代金の支払が行われます。