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この方法なら自転車をタテに置けるのでスペースを節約でき、取り付けコストも比較的安いとみられる。これは事業者にとって重要な研究課題である。

さらに、同じ車両内の一部スペースに自転車利用客、その他のスペースに一般乗客が乗り合わせる場合に対応し、車両内部の空間デザインに工夫を加えることも必要である。安全性を確保しつつ、車両内の乗客数の変化に応じてフレキシブルにスペースを変化させる工夫をすることが、事業者に求められる。

こうした一方で、事業者の間には「自転車持ち込みのための施設改造は莫大なコストがかかる。簡単に列車に持ち込める折り畳み自転車を普及させる方が現実的ではないか」とする意見もある。実際、JR東日本はナショナル自転車工業と共同で重さ6・5キロの世界最軽量の折り畳み自転車を開発した。折り畳み自転車は価格が比較的高く、スピードや安定性が普通の自転車より低いなどの問題はあるが、手荷物として持ち込める手軽さは魅力。今後、事業者と自転車メーカーによる一層の研究開発が望まれる。

(3) 自転車利用の拡大を目指した新しい交通体系の構築

鉄道車両への自転車持ち込みを国内に定着させるためには、鉄道事業者や利用客を主眼にした促進策の検討だけでなく、自転車利用の拡大を念頭に置いたインフラ整備、交通体系の構築が必要になる。いくら列車への自転車持ち込みが容易になっても、駅から出た途端、利用客が途方に暮れるようでは何の意味もない。自転車に適合したインフラ整備、交通体系の構築は国や自治体が取り組まなければならない課題である。既製概念にとらわれず、自転車先進国である欧州の事例を参考にして抜本的な改善策を打ち出すことが求められる。

今回の報告書でも述べているように、欧州では自転車の利用拡大を重要な政策課題と位置付け、自転車が走りやすいインフラづくり、交通体系の整備に取り組んでいる。例えば、交差点では自動車の前方に自転車用の待機スペースが設けられ、赤信号が青に変われば自転車優先で進行する。また左折、右折のレーンは自動車用と自転車用を明確に区別し、巻き込み事故などが起こりにくい工夫を施している。このほか、道路の拡幅を行わずに一方通行の両サイドに自転車専用道を設けるなど、柔軟なアイデアと工夫で自転車のための環境整備を行っている。

日本は欧州に比べ坂道が多く、道路の幅もさらに狭いなどのハンデはあるが、ノルウェーの「サイクルリフト」などに見られるように、知恵と工夫次第で自転車のためのよりよい道路環境の整備は十分可能と思われる。我が国でも、すでに建設省が全国14都市で自転車道のモデル整備事業を進めているが、今後、こうした施策をさらに積極的に推進するべきである。これによって、自治体による自転車道の整備事業も促進され、鉄道への自転車持ち込みのための基盤が整備されるとみられる。

 

 

 

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