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今回はモデル事業の実施をタイミングよく記者発表し、新聞、テレビが大々的に報道したことにより、自転車持ち込みの知名度が大幅にアップするケースがあった。逆に記者発表のタイミングが悪かったため、知名度がそれほど上がらなかった例もある。

現在、地球環境問題に対する社会の関心は極めて高く、自転車持ち込みの推進にフォローの風が吹いている。この機会をとらえ、自転車持ち込みとタイアップしたイベントなどを企画してマスコミに話題を提供すれば、相当の波及効果が期待できる。また、沿線自治体に情報を積極的に提供し、市民に対する啓発活動を進めてもらうことも重要である。

PRによって自転車持ち込み利用客が増えれば鉄道事業者の収入が増え、事業者の収入が増えればサービス内容が向上し、さらなる利用拡大につながる。これらはニワトリとタマゴの関係だが、いずれにせよ鉄道事業者はまず、PR活動を推進・強化する必要がある。

一方、自治体は事業者の要請を受けて、PR活動に前向きに協力し、自転車持ち込みのためのムードづくりに貢献すべきである。また、マスコミは環境報道への取り組みを強化し、その一環として自転車持ち込みを積極的に報道すべきである。

(2) 安全性確保のための施設改造

自転車持ち込みを円滑に進めるために、最も重要なことは言うまでもなく安全性の確保である。自転車持ち込みの利用客、持ち込みを行わない一般乗客の双方にとって十分な安全対策をとるため、何らかの施設改造を行うことが鉄道事業者に求められる。

欧米の駅では改札口がなく、ホームまでがスロープになっているケースが多い。日本の駅で改札口を廃止することはむずかしいが、改札口の幅を広げたり、スロープを増やしたりすることは可能なはずだ。これは自転車持ち込み客だけでなく、車椅子利用客のためでもある。逆に言うと、高齢者や障害者向けにスロープ、エレベーターなどの施設を充実させている駅は、自転車持ち込みのためのインフラをも兼備していることになる。自転車持ち込みのための施設整備は、環境と高齢化という21世紀の最も深刻な課題のいずれにも対応するものであり、事業者はぜひこれに真剣に取り組むべきと考えられる。

ここで問題になるのは、自動改札口で自転車持ち込みにどう対応するかという点である。日本の駅の改札口は自動化が急速に進んでいるが、自転車持ち込みにも併用される車椅子用の改札口は、将来的にも有人のままにするという考え方の事業者が多いとみられる。しかし、バリアフリー化が進む将来の駅では障害者にも健常者と同等のモビリティーを確保できる仕組みが必要であり、車椅子対応の自動改札口はそうした仕組みの一つである。鉄道への自転車持ち込みを地球環境保全のための重要な対策と位置付けるならば、車椅子・自転車用の自動改札口の整備は、事業者がぜひ取り組むべき課題といえるだろう。

また、列車走行中の安全を確保するためには車両の改造も求められる。これについては、本報告書で紹介した欧米での事例が参考になる。スイスやドイツなどでは、車両の天井にフック(固定金具)を取り付け、このフックに自転車の前輪を吊り下げて、後輪を金具に固定して輸送する方式が一般的。

 

 

 

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