5. エコ交通の課題と展開
・エコ交通の課題
広義のエコ交通の課題…社会の対応
地球環境問題から交通を考えるとき、これまでのライフスタイルや産業構造、社会制度等の大きな枠組みから見直して社会全体として取り組まなければ抜本的な問題解決につながらない。同様に、都市環境や都市交通レベルでも価値観評価軸を見直していかなくてはならない。
日本社会の意識としては、例えばEU諸国と比較して認識不足は否めない。EU諸国では石油ショックを契機として、エネルギー問題に端を発し、大気汚染、地球温暖化の危機感から、様々な施策を講じてきた。特に90年代からCITELEC,ZEUS等数多くのプロジェクトを進めている。また、60年代から都市づくりの一環として都心部の歩行者優先化、自転車道路網整備とともに、公共交通を中心とした都市交通体系の再構成に努力している。都市空間も車優先の都市空間利用を見直し、歩行者や自転車、公共交通に空間の再配分を進めている。中心となるテーマは車利用の修正とそれに従った都市空間と都市交通の再構成ということができる。
そうした観点からの車依存社会全体の方向転換と価値観の見直しが望まれ、政策や制度面から改善努力が必要である。
狭義のエコ交通の課題と具体化…個人の選択と新しい使い方の促進
社会の枠組みに関わるほど大事でなくとも、個人個人の交通手段の選択や利用方法の見直し程度から、車や自転車等のシェアリングといった新しい使い方を工夫し普及するという程度の比較的身近な手当てレベルでも相当環境への影響を軽減することができる。
都市交通では、基本的に公共交通を都市生活のインフラとして最優先しマルチモーダル化をはかっていくことが前提にはなるが、当面抜本的な都市交通体系が構築できない場合であっても、車にかわる中間モードの交通を支え、あるいは環境に効果のある車の新しい使い方を一般化することはマルチモーダル化にむけて必要なことである。当然一方では車自体の性能向上などの進化も期待される。ここでは、車の新しい使い方と車にかわりうる交通手段に焦点を絞り、さらに車の新しい使い方ではカーシェアリングを、車にかわる交通手段としては自転車の都心レンタサイクルを取り上げた。この普及のための体制づくり、財政支援、情報提供など行政を始め都市や交通に関わる多くの機関、人々の総合的な早急の支援が必要となっている。そのために、今後も議論を重ねて問題点を認識し、手だてや戦略を練り、実施をはかっていく必要がある。成立条件や市場性、一般の人々の評価など新しいことをスタートするときに生じる多くの課題は、社会実験をすることで解決方法も見いだせる有効な手段である。
これらエコ交通は環境面での効果を上げるための交通からの努力であり、また人々の生活の質的向上にかかわってくるので、様々な形で今以上の公共側の支援は必要な分野である。
今後の研究・事業について
本研究では、まず、新しい言葉であるエコ交通の概念整理を試み、ケーススタディの検討などを通して、環境に効果的な手だて見出し普及していくために検討を進めてきた。今後はさらに、ここでは十分ふれることができなかった物流の問題など視野を広げつつ、さらにエコ交通の概念を深めていくことが必要である。同時に、エコ交通の普及のための一端として実際に社会実験、施策の提案等の具体的展開も重要である。