1. 運輸・交通関連の環境事業を取り巻く動向
(1) 「エコ交通社会」と環境事業
1) 運輸・交通と環境を取り巻く社会的趨勢
○大量消費社会から循環・省資源型社会へ
物質的に豊かになった日本の社会では、資源やエネルギーの消費量が大きく増加している。周囲には自動車や家電等の耐久消費財があふれ、食料や衣料等の生活必需品も多様化している。こうした大量消費型の社会では、それに伴って生じる排ガス、廃水、廃棄物の量も膨大になることは避けられない。このような大量生産、大量消費等の経済活動の拡大に伴う環境問題は、一部の地域に限らず、地球全体の問題として対応せざるをえない段階にきている。
1992年にブラジルで開催された「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」は、このような地球規模の環境問題を議論する先駆けとなった会議であるが、ここでの議論を受けて採択された、21世紀に向けての行動計画が「アジェンダ21」である。この「アジェンダ21」では、大気汚染・地球温暖化防止、森林減少対策、砂漠化の防止、生物多様性の保全、海洋保護、淡水資源の保護等の分野ごとに具体的な行動計画が提示された。
また、この会議で強調されたのが「持続可能性(sustainability)」という概念である。これは「開発」と「保全」を調和させ、持続可能な発展、すなわち地球環境の保全を前提として、今の世代だけでなく、子々孫々の世代までの生産行為から最大の利益を得ようとする考え方で、その後の国際機関や各国政府の開発協力の主要な理念の一つとなっている。
さらにこの考え方は地域レベルの開発にも適用され、例えば「持続可能な都市づくり活動:サスティナブル・コミュニティ」は、人間性に根ざした半永久的に存在しうる町づくりという意味である。ゴミをはじめとする環境問題に対応するだけでなく、交通、住宅、災害対策等に関しても自然共生型の生活様式と人間性を重視した形で社会に組み込んでいこうとするものである。
最近日本でさかんに使われ出している「循環・省資源型社会」という考え方は、やや環境に重点を置いているが、サスティナブル・コミュニティとほぼ同様の方向性を持った言葉といえ、この方向に沿った施策もかなり打ち出されてきている。
このように、地球環境保全を前提とした社会づくりという考え方がようやく定着しだし、その方向に向けての具体的な動きも徐々に実現しつつある。大量消費社会から循環・省資源型社会への移行が進み始めている。
○循環・省資源型社会の実現のために運輸・交通部門が抱える課題
循環・省資源型社会のなかでの運輸・交通部門の影響力は大きい。特に地球環境への影響という観点からは、温室効果ガスとしての二酸化炭素と、窒素酸化物をはじめとする大気汚染物質の排出源であるとともに、局所的には騒音・振動や海洋汚染の発生源にもなりうる。また、石油系の燃料を大量に消費しているという点も問題であろう。
このうち温室効果ガスに関しては、気候変動枠組条約(1994年発効)において「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすことにならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させる」ことが究極的な目標として定められた。また、1997年に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)では、先進国における温室効果ガスの人為的な排出量を2008〜2012年の平均が1990年の水準より少なくとも5%削減することを目標として、各先進国に対し国別に差異化された削減目標を課す京都議定書が採択された。ちなみに、同議定書では日本の削減目標は-6%に設定されている。