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4-2 マニュアル作成において配慮すべき事項

 

(1) マニュアルおよびプログラム作成における当事者参加

 

これまで述べてきたように、交通機関利用において障害者が感じている困難は物理的なバリアだけでなく、現場の従事者の対応によっても時として大きなバリアを感じていることがある。むしろ人的対応によるバリアのほうが利用者にとっては不快で辛い思いをすることが多いと考えられる。1章でも指摘したように、いくら交通手段のアクセシビリティが確保されても、人的対応が十分でなければ円滑な交通機関の利用は望めない。その点で、ソフト面のバリアを取り除くことが重要な課題である。

ソフト面のバリアを取り除くには、接遇・介助教育プログラムの作成においてニーズを十分に把握するために、高齢者・障害者等の当事者の意見を聞くことが必要である。また、ソフト面のバリアヘの対処という視点だけではなく、よりよいプログラムを作成するためにも、実際に交通機関を利用する人の意見を取り入れることは重要なプロセスである。マニュアルの作成においては、利用者からの意見のほか、具体的な苦情の事例なども入れて現実的な対応を想定することも重要である。

 

(2) 情報の収集における専門機関等との連携

 

今回の調査では、国内の交通事業者が接遇・介助教育のプログラムを作成する場合、策定・実施のための十分な情報が得られず整備が進まないという状況が明らかになった。交通事業者において長年培われたノウハウとともに、外部の専門的な機関の協力を得ることで、この状況は大幅に改善されると考えられる。欧米に見られるように、高齢者、障害者の団体、リハビリテーションセンター、福祉施設、大学や研究機関、コンサルタントなどの福祉団体や専門機関等と連携して支援を受けることが考えられる。こうした諸組織との情報交換の実施など、日常的な協力関係を築くことも大切である。こうした協力関係は、接遇・介助教育の実施、講師の依頼、施設実習等で具体化できる可能性がある(次節表4-3-1参照)。

また、アメリカやカナダでは、プログラムの作成に関して、常設の諮問委員会を設置して意思決定を行っている事例があり、そのような機能を持ったアドバイザー的な組織を設けて意見を聴取することも考えられる。

 

(3) 尊厳を持った対応

 

高齢者・障害者の理解は接遇・介助教育の最も重要な要素である。的確な介助技術を修得することはもちろん大切であるが、相手を思いやる、尊厳を持って対応するという心がまえが重要である。これは高齢者・障害者への接遇・介助だけではなく、日常的なサービスにおいて普遍的に必要なことである。

特にエチケットとして、高齢者・障害者を特別視せず、誰もが同じように外出するニーズを持って交通機関を利用していることを理解する必要がある。また、必要なのに十分な介助を受けられなかられなかったという指摘がある反面、過剰な対応を取ることもかえって高齢者・障害者の自尊心、自立心を傷つけることがある。

介助の際には必ず相手のニーズを確認してから対応することは接遇の基本である。マニュアルの作成ではこの点を明示する必要がある。

マニュアルで修得した知識を活かす対象は交通機関の利用者である。接遇・介助は、アメリカ、カナダでは「センシティビティ」(感受性、感じ取ること)という語が充てられているように、想像力豊かに相手を思いやることにより成り立つものである。高齢者・障害者に対して「尊厳」をもって接することを教育プログラムとして明確に位置付けることは、障害に対する理解を醸成する点で重要である。

 

 

 

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