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1章 調査の目的と接遇・介助教育の必要性

 

1-1 調査の目的

 

本調査は、鉄道、バス、タクシーなどの公共交通事業者の接遇・介助教育の実態を把握し、交通事業者の接遇・介助教育プログラム(欧米ではセンシティビティ・プログラム)を作成するための基礎調査である。

かねてから高齢者・障害者の積極的な社会参加の必要性が指摘されている。さらに、確実に訪れる超高齢社会を目前に、これまでになく高齢者の円滑な外出を実現させていく必要性も指摘されている。そのためには、公共交通機関の物理的なバリアを取り除く事が重要であるとの認識が高まっている。わが国でもこうした認識のもと、公共交通機関における移動の円滑化のためのバリアフリー対策が講じられてきている。その整備状況は着実に進展しつつあり、高齢者・障害者等が公共交通機関を利用する際に、安全かつ快適に利用できることへの期待が高まっている。

一方、公共交通の高齢者・障害者対策で先進的な取り組みをしている欧米では、鉄道、路線バス、タクシー等でバリアフリー化を推進してきている。しかし、そうした取り組みをしても高齢者・障害者の利用が予測より低いという現状がある。その原因の一部として、公共交通機関を利用する高齢者・障害者が、「旅行の目的地に到達できるか不安になる」ためという指摘がある。この点から、ハード面の整備だけではなく、ソフト面の人的な対応の重要性が高いといえる。こうした状況を踏まえて、高齢者・障害者等が利用しやすい公共交通機関にしていくために、物理的バリアの除去と併せて、人的対応というソフトウェアーの整備が重要であるという認識が世界的にも広がっている。

これまで、公共交通事業における接遇・介助のありかたについて報告した調査は、一部の財団法人や市民団体等が行った高齢者・障害者の移動に関するニーズ調査などの他はほとんど見られない。こうした現状を鑑みても、実際の場面で、公共交通従事者が障害を持つ人や高齢者をどのように理解し、対応し、介助したら良いのか、わかりやすく具体的に説明した公共交通事業者向けの情報提供の必要性が高まっている。

本調査においては、国内と北米(アメリカ・カナダ)の交通事業者の接遇・介助教育の実態把握および課題の整理を行い、交通機関従事者の高齢者・障害者等に対する接遇・介助の教育プログラムの基本事項をまとめる。また、次年度以降はこの調査で得られた情報をもとに、交通事業者向けの具体的なマニュアルの策定を行う予定である。

 

1-2 接遇・介助の定義

 

ここでは、本調査で対象とする交通事業における「接遇」と「介助」という語について定義する。

接遇(Sensitivity)とは、障害を持った乗客から派生する様々なニーズに気付き、一般の乗客と同等に接し、理解と尊厳をもって応対することである。一般的にはやや馴染みが薄いが、鉄道や接客業ではこれまでも用いられていた言葉である。アメリカ、カナダでは、こうした人的対応による接遇面の教育をセンシティビティ・プログラム(Sensitivity Program)と称することが多い。アイコンタクトの必要性から障害を理解する事、接し方に至るまでの教育プログラムが取り組まれている。

 

 

 

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