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規制に勝るグリーン化税制

 

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京都大学経済研究所教授

佐和隆光

 

温暖化対策を規制的措置と経済的措置に大別すると、運輸省の自動車関係諸税のグリーン化は、本邦初の経済的措置の提案である。近年、「大きな政府」に対する批判が喧しいにもかかわらず、なぜか温暖化対策に限って、わが国政府は規制的措置を優先する傾きが強い。経済的措置を選ぶのか、それとも規制的措置を選ぶのかは、結局のところ、市場経済が好きなのか嫌いなのかに帰着する。私自身は、市場万能主義者ではないけれども、「市場の力」を有効に活用することを良しとする立場にたつ。わが国政府は、経済構造改革を最優先の政策課題に掲げながら、温暖化対策に限って、例外的に規制の強化に走るのは、どう考えても矛盾をはらむ政策スタンスだと言わざるを得ない。

自動車からの二酸化炭素(CO2)排出量は、わが国の総排出量の20%強を占めているから、平均的な燃費効率が10%改善されれば、総排出量の2%強が削減される。しかも同じ排気量の低燃費車に乗り換えること自体、何の苦痛をも伴なわないはずだから、自動車の燃費効率の改善ほど、費用対効果においてすぐれた地球温暖化対策は他に類例を見ない。1年、2年といった短期間にではなく、10年余りの長い時間をかけてCO2排出削減義務を果たせばよい、という当たり前の事実を忘れてはならない。時間が長いということは設備の取り換えを可能とするから、CO2排出削減はそれだけたやすくなる。今現在、路上を走る自動車のうち、2010年に走り続けている車は高々一割程度であろう。言い換えれば、今後10年のうちに、ほとんどの車が新車に置き換わる。それゆえ、平均的な燃費効率を10%改善することは、十分可能性の範囲内に収まる目標なのである。

燃費効率改善の数値目標を自動車メーカーに義務づけたりする規制的措置と、自動車税制のグリーン化という経済的措置とを、相互に比較対照させてみよう。結論を先に言うと、政策としての洗練度、市場経済との整合性という観点から見て、後者の方がだんぜん勝る。理由は以下のとおりである。

第一、CO2排出という外部不経済を「内部化」するための方策の一つが、自動車関係諸税のグリーン化である。したがって、相対的に高い税(過度にCO2を排出することへの課徴金)を支払う人には、CO2を余計に排出する権利を認めて然るべきである。日本は自由主義社会なのだから、燃費効率の悪い豪華な大型車に乗りたい人には、高い税金を払った(環境コストを負担した)上で乗ってもらえばよい。燃費効率の悪い車を売ることを禁止したりするのは、「選択の自由」を保証する自由主義社会にはどだい馴染まない。

第二、市場経済は消費者主権を原則とする。それゆえ、燃費効率の悪い豪華な大型車を消費者が欲しがれば、それらを供給するのが生産者の義務である。燃費効率の良い車を作ることを政府が企業に義務づけたり、燃費効率の悪い車を売ることを禁止したりするのは、消費者主権の原則にもとる。日本を社会主義計画経済体制に変更することを望まない限り、「義務づけ」や「禁止」は極力避けるべきである。政府がやるべきなのは、低燃費車を消費者が選好することを動機づけることに尽きるのである。それ以上のことをやるのは、自由主義国家の政府の越権行為だと言わざるを得ない。

 

 

 

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