5章 調査の課題
5-1 北米の調査から明らかになったわが国の課題
ここでは、アメリカとカナダの交通のアクセシビリティ対策を調査した結果明らかになった、わが国における課題を整理した。
(1) 法的な位置付けの必要性
交通のアクセシビリティ対策に関しては、アメリカ、カナダともに、政策として法的な位置付けが明確になっている。基底として、公民権や人権の観点から、障害を理由にしたいかなる差別も禁止し、交通にアクセスする権利があることを明確にしている。こうした政策的位置付けにより、交通事業者はアクセシビリティ対策を進めることになり、利用者にとっては質の高いサービスが提供される。交通のアクセシビリティを法的に明確に位置付けることの必要性が高いと言える。
先進国でのこうした状況を反映して、わが国でも制度的な支援のきざしが見え始めている(4-2参照)。
(2) 様々な組織の関与の必要性
1]非行政組織の関与
北米のアクセシビリティ対策の進展において、特に重要な点として交通事業者、行政機関以外のNPOや外郭の研究機関等の組識が関与していることが挙げられる。こうした組織がネットワークすることにより、行政機関や交通事業者だけでは十分に対応できない総合的なアクセシビリティ対策が進展している。わが国でもこうした第三者的な組織の必要性が高まっていると考えられる。
2]公的研究機関による技術開発のインセンティブ
カナダの事例で示したように、交通開発センターなどの研究機関と車両メーカーなどが連携し、アクセシブルな車両等の機器開発が盛んに行われている。アクセシビリティ機器の開発はこうしたチームワークが支えてきた側面が大きく、国産の優れた製品を生み出す原動力になっている。わが国でも高い技術力を十分に発揮するために、交通関連機器の開発においては、公的な研究機関の主導による、交通事業者、各種機器メーカー、大学、民間研究機関等との共同研究、技術移転等の交流をさらに進めることが必要である。