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保育所外国人保育実践セミナー/教育・研究の立場からの提言

大阪国際女子大学 谷口正子

 

(1) 保育実践者に大学教員がお話しすべきこと/保育の国際化とは

両親ともに外国人、あるいはどちらかが外国人である子どもの数が急速に増してきて以来10数年が経過し、すでに多くの保育施設ではその試行錯誤を重ねた実践を通しての貴重な体験からノウハウを身につけ、外国人の保護者からは称賛の声も多く聞かれるようになっている。この事実を踏まえて教員としての私が話すべき課題のひとつとして、日ごろ多忙な保育者に成功例、失敗例を提示し情報を提供することも大切なことである。しかし個々の保育実践の現場で直面する諸問題は人種・民族・文化の違い、外国人の子どものおかれている立場の違いによって千差万別、数限り無くあり、そのような情報をすべて挙げることは不可能である。したがって私は成功例の底に流れる共通の考え、つまり保育者が持つに至った気づき(それは国際化の理念に外ならない)についてお話ししようと思う。

外国人を預かる保育園は、言葉の問題も勿論大変ではあるが、分かり合うために努力をする誠意を示すことで心は通じること、また生活習慣に関しても“相手の文化を尊重し歩み寄らなければ保護者との問題は永遠に解決せず、毎日の保育が成り立たない、”ということも体験を通して気づいている。保護者の頑なともみえる彼らの文化(宗教・習慣)に拘る姿勢は日本人の意識とは遠いかもしれない。しかし、よく考えてみると日本での当たり前のことが外国人にはおかしいと感じることことがよくあることにも思い至る。

文化とはその民族が長い年月をかけて培ってきた貴い遺産であり、彼らの誇りであること、また違うところは興味深く学び合う姿勢が大切であるが、一方人間として同じところの方がはるかの多いということにも保育者たちは気づいている。

保育園も外国人の子どもを預かった経験の多い少ない、そのことによる意識の高さ、配慮の深さなどに多いに格差がある。その意味で個々の実践者同士の情報交換はとても大切である。今回のような研修会が来年も再来年も続けられ“もう必要ないよ”と誰もが思えるようになるまで継続すべきであろう。

 

(2) 保育系学生(日本人)の教育による意識の変革

学生は外国人に慣れていない、知らない、自分のすぐ隣に外国からさまざまな理由で来られた人々が生活をしているという意識が非常に低い。学生は、地球にはいろいろな人種、民族があって、文化の異なる人々がいること、多様性の大切さを知り、多様性を貴ぶという真の国際化の教育を受ける以前に、同一性をよしとする、すなわち異なるものを排除しようとする日本の教育をその初期の段階からたたき込まれてきている。日本の社会全体の意識も同様で、外国人の子どもや保護者との間に起こるさまざまな問題の根底には、このような世界では珍しい日本人の意識が原因の一つになっているとも思われる。意識の変革は必至であり“保育の国際化教育”は教育現場での必須科目として是非必要である。

 

(3) 望ましい保育園の在り方

1] “こちらの事情はさておき”相手の考えに耳を傾ける努力、相手を受け入れる姿勢

世界にはいろいろあるんだという意識、偏見があったとの自覚:慣れるとなくなる

2] ゆったりとした心の余裕、全部分かってもらわなくてもよい、少々の規則違反に目をつむる広い心、日本の親子にもよい影響を与える。

3] 園の規則の見直し:子どものための規則と思っていたものが、実は大人の都合であったと思い当たり、その反省にたっての大幅な規則の改正をする園もある。

 

 

 

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