日本財団 図書館


◆はじめに

 

1. 緊急事態事業の実施にあたって、適切な取り決めは事業を成功に導く基盤となる。UNHCRには「国際的な保護を提供する」という法的に定められた特有の責任がある。だが難民に対し物的援助の提供・分配を行なうことの責任には法的根拠がなく、UNHCRが直接行なう場合もあれば、他の組織、すなわち政府、国連機関、または非政府組織(NGO)が実施する場合もある。援助事業の実施取り決めには、多くの要因が影響する。本章では、モニタリング、報告、評価など、緊急事態の実施取り決めと手続きを概説する。詳細は、UNHCRの標準手続きガイドラインを参照のこと。

 

◆実施取り決め

 

2. 緊急事態の規模やニーズによって、さまざまな分野で多数の実施取り決めが必要となる。ある組織は保健関連、別の組織はロジスティクス(輸送・供給)関連の事業責任を負う。同じ分野の中でも事業責任を分けなければならない場合もある。保健問題は、難民居住地や共同体(コミュニティ)ごとに担当する事業協力機関が異なるかもしれない。UNHCRの定義する事業協力機関とは、難民を保護・援助するためにUNHCRと協力して活動する組織や機関であり、このうちUNHCRと実施合意を結んでいるのが実施協力機関(implementing partner)である。

 

3.

UNHCRは、直接的ではなく、なるべく実施協力機関を通じて間接的に援助活動を実施する道をさぐる。

この方針は、UNHCR事務所規程に定められている。第1条は、「政府及び、関係国政府の認可に基づき民間団体を援助することによって、難民問題の恒久的解決策を図る」ことを高等弁務官に求めている。また同第10条には「高等弁務官は難民援助のために受理した公私からの一切の基金を管理し、この援助を運営するにもっとも適格であると同弁務官が判断する民間機関及び(適当な場合には)公的機関にこの基金を分配する」とある。

 

UNHCRの担う事業責任の程度

4. 通常、UNHCRは実施協力機関を通じて間接的な実施の道をさぐる。しかしUNHCR自身がより大きな事業責任を担うことが難民の利益にとって必要ないし明白な場合もある。どの程度直接的に事業責任を負うかは緊急事態によって異なり、事業の進み具合も左右される。

 

5. UNHCRや他の組織、政府の事業責任の大きさは、以下の要因に影響される。

i. 当事国政府の緊急事態管理能力。これは難民緊急事態の規模、性格、場所、ならびに既存の政府組織の対応能力によって決まる。

ii. 援助が最も必要な分野での、政府以外の組織の存在と対応力。

iii. 緊急事態の段階。緊急事態の発生当初は、政府自身が全面的な事業責任を負う場合が多い。例えば、新たな難民流入が起きると、まず、地区または地方当局による援助が実施される。他方、UNHCRが最大の事業責任を負うのも緊急事態の発生時期であることが多い。これは、適当な事業協力機関が当事国ではすぐに見つからないためである。

 

6. UNHCRが大きな事業責任を実際に負う場合、十分な数のUNHCR職員を迅速に配備し、必要な人員と専門知識を駆使できるような迅速な措置が必要とされる(第20章を参照)。同時に、各分野で任務を引き受ける機関を特定し、その動員措置をできるだけ早く講じる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION