(2) パスワードに拠らない識別
パスワードは比較的簡便に本人確認できる方法として実用的であり、普及しているが上記のような根本問題がありその解決方法も万全のものはないという難点がある。その点で本人の身体的特徴を識別に使う方法が提唱され、実験や限定的な実用化が行われている。身体的特徴として指紋が最も一般的であるが、虹彩のパターン、声紋等が挙げられる。いずれも本人が忘れたり、盗難に遭うものではない。
情報技術で本人確認のために使用するこれら身体的特徴は、以下のような条件を満足させるものでなければならない。
1] ユニーク性
他の人と区別して本人を識別するのであるから、その身体的特徴はその人に特有のもので、かつユニークなものでなければならない。
2] 不変性
本人の身体的特徴を一度登録しておき、入力があった時点でその元のデータと突合し、本人であることを確認するのであるから、その特徴が故意あるいは何らかの原因で変化してしまうことは不都合になる。
3] 認識の容易性
本人にユニークであり不変であるとしても、その情報量が大きすぎる、又は読み取りが困難であるというのでは、全国民レベルに拡大する点から実現性が失われれることになろう。現状の情報技術で容易に多大なコストをかけずに認識ができるものが望ましい。
上記の条件を満足させる身体的特徴の比較は表6-1のようになろう。比較において指紋が最善の方法となるが、日本人にとって指紋は犯罪と結び付けられた暗いイメージが強く、これを個人認識のために登録すること対する抵抗感が強く、普及、定着の実現性はない。
声紋は登録時と同じ話し方で認識用に入力しなければならない点と認識装置の費用の点で問題がある。虹彩も音声と同様の問題があるが、不変で安定的である。パターンを登録しておくデータ量が多く、ICカードのメモリが大きいといってもその大半を使ってしまうという問題がある。最もICカードのメモリ容量の増大は今後ますます進むはずであり、当面の技術的な問題であると考えられる。認識装置のコストが低くなれば実用性は高くなるであろう。