§3.でも述べましたように自然界に存在する微生物の数、種類は想像を絶するもので、その営みも多岐にわたります。
炭化水素を養分として代謝を行う微生物も広く分布しています。勿論、その能力はまちまちですが。一方、微生物そのものが、環境に適応して新しい能力を身につけることも容易に想像できます(突然変異)。油の形態を示しているものがいつの間にか(長い時間が必要)目に見えなくなってしまうということは、油を食べて(分解して)しまう微生物が居ると考えても不思議ではありません。逆の見方をすると、油があるところには油を分解する微生物が存在する確率は高いと言えます。
事実、1960年代以降、油井(石油を採掘する穴)付近とか、油が漂着する海岸で多くの油を分解する細菌がみつかっています(勿論、それより以前にもこのような細菌は居たでしょうが、興味の対象にならなかっただけのことと思われます)。
当然の考え方として、このような自然に存在する細菌は、我々に積極的に害を与えているものではないので、これら細菌を有効利用して、油で汚染された海浜等から油を取り除こうという考えが生まれました。これが先に述べました狭義の生物学的環境修復です。
更に同じ油を分解する細菌の中でも、得意、不得意の分野があり、あるものはパラフィン系炭化水素を非常に良く分解するが、芳香族系炭化水素には手も足も出ないといったように、特異性があることもわかってきました。
遺伝子操作の技術が進歩するにつれて、特異性をもつ細菌の“いいところ取り”をして、万能の油分解菌を作ろうという試みもされるようになりました。
ここで大切なことは、自然に存在する細菌を用いるにせよ、作り上げた細菌を用いるにせよ、生態系(Eco-System)に何等かの変化をもたらすものですので、その影響については事前に充分検討しておかなければならないということです。
自然に存在するものは、従前より存在していて、これといった害を与えていないとはいえ、量は飛躍的に増大することとなりますと、他の生物に影響はないものかどうかを調べておくことも重要です。
その土地に存在しない細菌を用いる場合には、更に周到な検討が必要になります。