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また、こうして御献体下さった方々が、がっかりされることのないように、その御身体からでき得る限りのことを学び、その後の勉強につなげたい考えました。そして、将来医師になった時、こうしてご厚意を下さった方々に少しでも報いることができるように、社会に尽くしていきたいと強く思いました。

 

解剖学実習を終えて

葵 佳宏

九月十二日といえば、自らの手で初めて人体にメスを入れた日でもあった。「ああ、これをもって、自分が医学という世界にメスを入れ、それと同時に、自分がこれから歩む長い医療人生のスタートラインが切り落とされるんだな。」そう自分につぶやきながら、ぎこちない手つきでメスを持ち、御遺体に第一刀をいれたのであった。硬い皮膚に怯み、ついメスを抜いてしまったことが、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。一番、手触りに残る第一刀であった。この一刀が、自分が医学部に入った感覚をより現実的なものにしてくれた。これが、去年の九月十二日。当日の日記の言葉を引用するならば、あまりにも、インパクトが大きすぎた日であった。

 

 

 

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