しかし、いざ実習が始まってみると私は全く困惑してしまいました、神経や血管の区別どころか、神経と結合組織の区別さえつきませんでした。教科書ではあんなに分かりやすい図で示してあるのに、自分の剖出したものが何なのか分からないのです。私はこの時、理解することの難しさを知りました。自分で考え、本当に良く見つめなければ理解することは出来ませんでした。児玉先生は｢真実を見なさい｣とよくおっしゃいました。この真実を見つめることは本当に大変な事でした。私にそれが出来たかというと自信をもって応えることが出来ませんが、私は時間が過ぎるの忘れて、何時間も同じ場所を見つめ、ピンセットで神経や血管をたどり、筋束を調べていました。見ようと思っていると、その対象に引きつけられている自分がおりました。そして教科書で調べ、自分なりに考えることが出来ました。
私はこの実習を通して、真実を見ることの大変さを知りました。そこには真実しかないはずなのに、見ようとして考えなければ、何も見えてはきませんでした。そしてまた、この実習を通して、自分の姿というものが見えたように思います。普段、様々なものに支えられていることが分からなかった自分というものが、考える度に自分の力不足を思い知らされました。
献体して下さった方やご家族の方には、このような貴重な体験をさせて頂いたことに本当に感謝しています。有り難うございました。
