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全身全霊で「立派な医者になりなさい。」と語って下さっている様だった。覚悟は決まった。涙は全く出なかった。

御遺体を通じて学ばせて頂いたことは計り知れない。人間の体とはこんなにも複雑ですばらしいものか、感動の毎日だった。とても小さな穴や、神経のつながり一つ一つに、生命を支える意味がある。どんなに詳しい教科書でも、どんなにすごい模型でも、御遺体には決してかなわない。人間は臓器の働きや部位は皆共通なのに、それぞれが微妙に違い一つとして同じものはないというのも、大きな驚きだった。これが人間なのだと思った。また、教科書で学んだ知識でしかなかったものが、御遺体に触れることで確かなものへと変わった。医学の知識だけではない。毎日御遺体に接することで、何でこの方は献体をなさったのだろうと考えた。それは自らの生き様を反省することでもあった。御遺体は死をもって私たちに生を教えて下さった。

火葬の日、御遺体のお名前を知った。そのお名前を、私は一生忘れることはないだろう。それは私が受けとった中で、「最高の贈り物」だからだ。何と多くのことを学ばせて頂いたのだろう。本当にありがたい。そう心から感じる。この日家に帰って、そう思うにつけ、涙があふれて仕方がなかった。二度目の実習では、今回での反省点を生かし、さらに勉強を続けたい。献体して下さった方々へのお礼のためにも、私が医師となり出会う人々のためにも、これからもがんばります。

最後に、献体して下さった方々、ご家族の方、その他実習を支えて下さった多くの方々に心から感謝します。ありがとうございました。

 

 

 

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