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本や写真で見るのではなく、自分で探し出したものを触ったり、押したり、じっくり眺めてみることによって、自然と記憶される事柄が沢山ありました。

同じように手や足の解剖でも、骨や関節に辿り着くまで筋肉を同定したり、更には、それを栄養する血管や支配神経を剖出しました。どの筋肉を曲げれば、どの指が曲がるのか確かめていると運動の様子が素晴らしくよく分かります。最近は、非常に精巧に作られた機械ロボットがお茶を運んだり、掃除したりするのを見かけますが、それでも、人間のように微妙な動きを真似ることは到底おぼつきません。解剖中、全てを剖出し終えた前腕や手掌を見て、それほど複雑には思わなかったのですが、その微妙な動きを可能にする仕掛けは神経の配線ではなく、やはり、神経そのものの仕組みなんだろうか(?)と少し不思議に思いながら眺めていたのを覚えています。

おなかの解剖は班員と協力しながら進めました。そのとき驚いたことは、人間の体は形や大きさの差異は別としても殆ど教科書どおりに出来ているということでした。もちろん、そうでないと大変なことになるのでしょうが、血管や神経の走行、並びに、周囲との位置的関係というのがかなり統一的に共通したものであることは意外でした。そして、また、諸々の臓器や血管のラテン名を覚えるばかりでなく、その位置的相互関係を理解することは私達にとって重要な課題であったように思います。

 

 

 

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