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それは、実習に慣れれば慣れるほど、御遺体に対する敬意が薄れていくのではないかということでした。実習に追われて、御遺体を、実習の対象として見るようになってしまうのではないかという不安です。しかし、そのような不安は本当に無意味なものでした。実習が進むにつれ、人体の複雑な構造に驚き、人間が生きているということの素晴らしさを認識するとともに、毎回私達に豊富な知識と感動を与えて下さる御遺体に、敬意と愛情が増していくのを感じました。

実習では、特に前半は毎回夜遅くまでかかり、本当につらいものでしたが、実際に自分の手で解剖して、目で確認することによって計り知れない知識を得ることができ、解剖実習がいかに重要かということを実感しました。

医学部に入ると、解剖実習はカリキュラムの中の一つという思いでしたが、解剖実習が終わろうとしている今、その考えは全く一変しました。決して、軽々しく考えていたわけではありませんでしたが、想像していた以上に、この実習を通して、自分が知識の面でもそして人間性の面においても豊かになりました。また、このような機会を与えて下さった御遺体に感謝しています、自分が実習に頑張って取り組んだ分だけ、御遺体の御遺志に添えるような気がして、まだまだ足りなかったかもしれませんが、自分なりに一生懸命実習に取り組みました。この三ヶ月間における貴重な体験と感動は、これから先も私の中で大きな存在をしめることと思います。今の気持ちを忘れずに、立派な医師を目指します。

最後になりましたが、献体を決意された御本人はもちろん御遺族の方々へ、本当にありがとうございました。

 

 

 

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