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探求心を持ち続けた日々

岩田 真一

九月に始まった解剖実習が終りました。毎日、夜遅くまでの解剖実習と帰宅してからの予習・復習に明け暮れ、今日が何曜日かわからないほど疲れた日々でした。しかし、いつの間にか暑かった解剖実習室も寒くなり、実習が終わりをむかえると、なんともいえない寂しさで胸が一杯になります。

解剖実習が始まるまでは、自分が人体解剖を行うことができるかどうか本当に不安に思っていました。

そして、初めて御遺体を目の前にしたとき、あたりまえの事ですが、御遺体が私達と同じ姿であったため、人間の死というものと対面しているという実感を抱き、特に顔を見た時は、感情の高ぶりのため直視できないほどでした。

しかし、いざ解剖実習が始まり、自分の手でメスを握り、皮をはぎ、脂肪を除いて、血管・神経・臓器等を剖出していくうちに、今まで教科書や講義等でしか学んだことがなく、また平面的かつ断片的なものでしかなかった私の人体に対する知識を立体的なものとすることができるうれしさと、私達自身の体の事でありながらその形を全くといっていいほど知らなかった臓器・血管・神経等を自分の目で見ることができるうれしさ、さらに医学部に入学したことのうれしさを感じ、最初に抱いていた不安感よりも探求心の方が勝ってきました。

 

 

 

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