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解剖志願者は、吉原の遊女・美幾女で、「大岡越前」でもおなじみの小石川養生所で行われました。

百年以上も昔に、この日本で、すでに解剖が行われていたのには驚きです。美幾女は、誰も志願したことのなかった解剖に志願をした。これには、相当の決意が必要だったことでしょう。こういう崇高な遺志の積み重ねによって、医療もここまで進歩してこれたのでしょう。

平成十年一月三十日。この日は我々の解剖学実習の初日でした。この日、緊張と不安で胸が一杯でした。しかし、ご遺体と対面し、不安がだんだん、責任感へと変わっていくのを感じました。そして、私たちは医師になるのだと肌で感じました。

死というものを考えた時、私達には、果たして、献体を考えるだけの心のゆとりがあるのでしょうか。

献体、その短い言葉には、死を超越した勇気を感じます。献体して下さった方々は、医学、そして後世の人類のために、無償の愛を捧げて下さったのです。こんな崇高な気持ちで献体して下さったのだから、私達は、その気持ちに対して、恥ずかしくないように、この解剖学実習で学んだことを生かして立派な医師にならねばなりません。

最後に、医学教育に深いご理解を賜りましたご遺族の方々に厚く御礼申し上げますと共に、諸霊の皆様の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

 

 

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