日本財団 図書館


に出来るようになり、図譜と見比べて細かく学習したり、班で話し合ったりする余裕も出て来ました。しかし、長く続く解剖実習の間、ずっと集中力を保てたというわけではありませんでした。しかし、折にふれ、この実習室に並ぶご遺体は医学の発展と私たちの学習のために献体して下さったのだと思うと、ここで頑張らないと何にもならないという気になりました。初めて御遺体に対面したときの思いが"死体"というものに対する恐れから来る通り一ぺんのものにしては、医学を志した者として失格だと自分に言い聞かせることもありました。

実習では図譜や教科書に書かれていること以外に多くを学ぶことができました。中でも私にとって、人体に対する尊敬は解剖学実習以前よりもずっと深くなりました。

ご遺体は無言でありながらも私が医師になるための立派な先生となって下さいました。私はこの無言の師に対する尊敬と感謝を忘れずにこれからも勉強していきたいと思います。

 

解剖学実習を終えて

岡本 直之

八月十三日。これは何の日でしょう。私も最近までは知らなかったのですが、この日は医師、そして我々医師を志す者にとって関係の深い記念日です。明治二年のこの日、日本における、最初の志願解剖が行われました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION