それは、解剖学という学問だけでなく、私の人生という意味でも。これは、一つの出会いなのではないだろうか。もちろん、言葉による会話など一つもない。しかし、ご遺体から語りかける荘厳たる思いは多々感じられた。生きている人が語るよりも、より一層重く語りかけられた。
こんなことも思う。ご遺体を提供された方々の人生にとっての最後の貴重な出会い、その相手が私であった。私は、それに見合った相手であっただろうか。
私がこれから送る人生の中で、この出会いで得られた教訓を生かしていくことが、出会いの証となるように思う。そして、次世代へと、遺志を受け継いでいきたい。きっと、医学により、より多くの人に、生きる喜びを与えることができるのではないだろうか。
最後になるが、このような非常に貴重な体験をさせて頂いた方々への深い感謝の念を表すと共に、謹んで御冥福を申し上げたい。
解剖実習のこと
岡田 定規
まず、ご自身の貴重な御身体を無償で提供して下さったT氏と、その御家族の方々に深く感謝いたします。
……わからない……
私の中で人体解剖実習はこの言葉と共に始まった。講義は聴いた。本も目を通した。手引書と図譜を並べて仮想的な予習もしたはずだった。でも、……わからない。