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切って黙々と切開している自分がいました。数日後にはしゃべりながら切開している自分がいました。時には予習さえあまりしない日もありました。初めての日の気持ちが薄れていったのは確かだと思います、けれども、実習は毎日が新たな発見だったのは確かです。そしてそれを無駄にしまいという気持ちは一度も忘れていません。

実習で得たものは何だったのでしょうか?やはり一番大きな事は、本では決して分からない、循環器系・神経系・消化器系・分泌系・筋肉・骨などといった全体のつながり、位置関係、実際に触ってはじめてわかる感触などでしょう。特に自分でメスを握ってはじめて、各器官がどういう順番で現れてくるかがわかりました。「解剖などしなくても本を見ればわかる。」などという人がいますが、大間違いです。解剖をしなければ医者にはなれない、これは断言できると思います。

最後に、人体とは何か?この答えが解剖を通してほんの少しわかった気がします。答えは「宝」ではないでしょうか。「人は死ぬとき体は土に帰る」と言います。人間は死ぬときにこの世に何もかも残し、魂だけが天に召されます。(そう考えない人も多いでしょうが。)この体はこの世で生きるために神様が授けて下さった、最大の宝ではないでしょうか。「小宇宙」と言われるのがなるほどと感じる、素晴らしい宝です。そして、こんな素晴らしい宝を役立ててほしいと御遺体を提供して下さった方々、心から感謝いたしますと共に、御冥福をお祈り申し上げます。

 

 

 

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