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解剖学実習を終えて

飯田 洋也

石垣 宏仁

伊藤 岳

私が医学部を志願したとき唯一ためらわれたものは、解剖学実習があるということでした。私はそのような行為がはたして自分にできるかどうか、はなはだ疑問だったからです。正直、死者とはいえ人の体を解剖することに恐怖を感じていたし、死者だからこそ、その体にキズをつけることは、その人の尊厳をキズ付けることになるのではないかと思っていました。

入学から二年がすぎ、教養の期間を終え専門の講義に入っても、その思いは消えませんでした、もちろん、専門に入ってからは解剖学の授業で、人体の機構について学ぶ際、さまざまなイラストや写真・スライドを見せられましたが、それそのものは平気でも、解剖実習を素直に受け入れることにはつながりませんでした。

そして、いざ解剖学実習となり御遺体とむかいあったとき、平然をよそおいながらもショックでした。中学二年の時に死んだ祖父を思い出しました。私はあのときお棺の中の祖父をじっと見つめていました、それと同じように御遺体の顔を見つめました。そして最初のメスを入れたのです。

 

 

 

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