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感謝

新井 大宏

先日、五ヶ月にわたる解剖学実習が終わった。この実習を通して、単に解剖学的知識にとどまらず、私は非常に多くのことを学び、考える機会をいただきました。今、自分でこの実習の意味を再確認するために、そして、献体をしてくださった方々とご遺族のみなさんすべての方々へ感謝を申し上げたく、この文を書きました。

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実習の日程はどんどん進んでいき、手際よく進めなければ、後日の作業が増えて、結果、理解を不十分にしてしまう。そうこうするうちに私も、「予習をして、講義を受け、実習をしたとき、はじめてご遺体からすばらしい"報酬"が与えられる」という意味がなんとなくわかってきた。

実習をすることで、予習・講義などで得た紙上の知識の断片が、一つのつながりを持つ人体構造として、そこにパッと視界が開けるような実感がした。それまでの苦労に十分すぎるくらい報いる感動と、発見の嬉しさがわいてきた。

年末も近くなったある日、私は同級生と共に某ALS患者さんの介助を一晩しました。そのとき、ふと、自分の生者と死者に対する態度の違いに疑問を抱いた。実習になれるあまり、ご遺体をヒトではなくモノとして、他の教材と同じレヴェルで見ている自分にショックを受けた。

 

 

 

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