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次々襲いかかる人体の不思議

内山 聡

三年生に進級したとき、一番初めに思ったことは「解剖学実習が始まるんだ」ということでした。「解剖」これは自分の中では医学部に入学する前から存在感のある言葉でした。昔から「医学部に入ると人体解剖がある」と聞いていましたし、それに対して怖れや不安といった気持ちも持っていました。他の人に「医学部の学生です」と自己紹介すると、何人かには必ず「解剖とかやっているんですか」とも聞かれます。それほど医学部内の人にとっても外の人にとっても大きな存在感のあるものだと思います。

解剖学実習の初日、僕は緊張しながら実習室に入って行きました。それまで身近に人の死というものを体験したことがなかったのも、僕の不安を大きくしていました。

しかし解剖が始まってみると、不安や怖れが驚きに置き換わっていきました。生体と違い皮膚の色、皮下脂肪のあざやかな黄色。体内から次々と現れる細かい血管。さらに進んでいくと全身のなめらかな動きを可能にする多くの筋肉、関節、それらを支配する神経。それまでは「臓器の位置を正確に書け」と言われても書けなかったであろう僕に、次々と人体の不思議さ、奥深さが襲いかかってきました。

 

 

 

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