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謝の気持ちを忘れず、真摯な姿勢で取り組まなくてはいけない」という内容であり、同時に、篤志献体にいたる経緯(プライバシーに差し障りのない範囲で)や法律にまで及ぶ詳細な説明がありました。

そのとき、死にゆく方々の尊いご意志に触れた私は、一種の驚きと深い感謝の気持ち体の震える思いがしました。私は医師として将来多くの人を救いたいという気持ちから医学の道を選択しました。そして死という瞬間が訪れるまでこの世に何か残したい、何かお役に立ちたいと思っておりました。しかしながら、自分の死後までもこの世に貢献しようと考えたことはありませんでした。これから私が接する方は人間として最も尊ぶべき、そして最も勇気のある方であることを知りました。

解剖学実習で医学的知識を学ぶことができたのはもちろんのことですが、それ以上に、医療従事者となる私はどのような心構えを持つべきなのか、はたまた、私は地球上に生を受けた一人の人間としてこれから何ができるのか、を考えさせられる機会でもありました。このような機会を与えてくださいました篤志家の方々へ心からお礼を申し上げます。今後、医師となる私の前に数々の試練が訪れるでしょう。苦しくて現実から逃れたいと感じることもあるでしょう。そのようなとき、私の目の前に横たわっていた故人の優しく勇気のある眼差しを思い出そうと思います。そして、その御意志に報いることのできるよう、一生懸命努力しようと思います。

最後に、故人の御冥福をお祈りいたしますとともに、遅くまで丁寧にご指導くださいました先生方、ご献体に携わった全ての方々に厚くお礼申し上げます。

 

 

 

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