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これではいけないと思いつつ、なかなか思う通りにはかどらないこともあった。こうした障壁にあたるたび、助けられたのはやはり一緒に実習を行った班員の存在であろう。学んだことをお互いに教えあい、復習しあうことにより、それぞれの知識を更に深めたものとすることができた。そして一緒に同じ実習を行う者の存在自体も、負けそうになる気持ちを踏みとどまらせる大きなものであった。彼らとともに実習を行えたこと、これも大変ありがたいことであったと思っている。

伊藤先生は解剖学実習の始まる時に、「君たちの前にいる献体者の方々は、君たちの最初の先生であり、その顔はずっと忘れられないことと思います。わたしも自分が学生時代に解剖した献体者の顔を忘れたことはありません」といったことをおっしゃったと思う。本当にその通りである。解剖実習が最初に始まり、最初に献体者の方にお目にかかった時の場面を忘れることはないであろう。

最後に祭壇に献花したとき、その時のことを真っ先に思い出し、献体者の方の顔を思い浮かべた。献体者の方は、我々の勉学のために解剖されることを喜びとし、尊いお身体を我々に預けてくださった。祭壇に献花し、顔を思い浮かべながら、ふと思った。今でもこの問題が頭を離れない。はたして私はあの方に喜んでいただけるような実習をすることが出来たのだろうか?

答えは自分自身のこれからにある。実習で得た知識を基に更なる研鑽をつむことにより、この解剖実習を実りあるものとし、そうすることによって献体者の方々にもきっと喜んでいただけるであろうと、私は信じている。

 

 

 

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