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それから解剖実習を通して実感できたもう一つのことは、自分がここで健康に生きて存在できていることが、どれだけ恵まれているか、ということです。人間の体は、実際自分の目で見ても、やはり巧妙で、不思議なものでした。そしてとても繊細なものに感じられました。何か一つが抜けてしまったり、ズレてしまったり、順序が違っただけでも、全く別の結果が出てしまうのです。うまく表現できないのですが、今こうして健康に生まれ、生きていることが、大変幸せな奇蹟のようなことにすら思えました。将来歯科医師として患者さんの体の治療にあたる前に、まず自分の体をもっと知り、もっと大切にするべきだと痛感しました。

そして、解剖実習を通して、私は一つ疑問に思ったことがあります。それは、"人の心はどこにあるのだろう"ということです。あたり前ですが、解剖しても心は剖出できませんでした。もちろん脳や神経はそこに存在しています。でもその人自身─その人の思い、というものはどこにあるのだろう、と感じました。

最後になりますが、献体なさって下さった方々、そしてその御家族の方々のやさしさと、それにかける思いを生かせるか否かは、歯科医師としての、そして一人の人間としてのこれからの私達の生き方にかかってきます。常に、感謝の気持ちと、解剖実習で得た数々のことを忘れずに、日々努力していきたいと思います、献体なさって下さった方々、そしてその御家族の方々、本当にありがとうございました。

 

 

 

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