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毎週、班員と実習に一生懸命に取り組み、体力的にも精神的にもつらい時がありましたが、人体のもつ神秘性にさらに関心が深まりました。献体された方々のご冥福をお祈り申し上げます。そして、私達は将来良い歯科医師として貢献できるよう日々努力いたします。

 

倫理と作業の間で

山崎 秀輔

解剖実習も終わりにさしかかった頃、自分の担当する部位の進度が思うように進まず、ふと溜息をついて両手を休める瞬間がある。そんな時、決まりきったように手を休め一息いれようとする自分に気付きはっとした。まだ実習が始まって間もない頃の自分を振り返ると、今まで経験したことのない緊張感と、これから起きる未知の体験への高揚感をもって授業に臨んでいたように思う。しかし、多くの人がそうであるようにその緊張感や高揚感というものが能率やノルマといったものに取って代わられ、知らず知らずの間にご遺体の尊厳とともに置きざりにされてしまっていることに気付き、そんな自分を恥ずかしく思った。尊厳や倫理感を意識しなくなった解剖実習は唯の作業に過ぎないということが今更ながら痛切に感じられた。知らず知らずのうちに忘れ去られていた優しさや思いやり。一人の人間が自分の人生の総決算として(もちろん個々人によってその人生の質や満足度、

 

 

 

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