譚:(オーケストラへの民族楽器導入も)私自身としては(武満)徹(トオル)さんから学んだことです。彼は1960年代に《ノヴェンバー・ステップス》を作曲したとき、日本の民族楽器と西洋のオーケストラを一つの色彩パレットの中に据えました。今日の作曲家の立場として、私は異なる文化圏のアコースティック楽器や電子楽器、コンピュータ・プログラミングやマルチ・メディアに至るまで、それらの間に境界線を敷く必要はないと考えています。それらすべては私自身の素材として一つのパレットの中に収まりうるからです。それらはばらばらの多くのものとして扱われるのではなく、多くを一つとして、一つのイメージ、ーつの終着点、一つの構造、一つの性格、ただひとつのひとつ、として扱われるべきなのです。
――つい先頃にはウィーンで中国の古典戯曲に基づく舞台作品《牡丹亭》(この作品もまた“夢幻”がキーワードとなっていますが)を初演されていますが、今後の創作や日本での演奏予定などについてお話していただけませんか。
譚:来年サントリーホールで2つのコンサートのプログラミングと指揮をします。若い世代の才能ある中国人作曲家たちが、いかにして文化大革命の廃墟から立ち上がり、自らの(音楽的)言葉や彼ら自身の過去と未来への眼差しを反映した展望を確立したかを、日本の聴衆と分かち合いたいと思っています。
もうひとつ、大規模なオーケストラの舞台的作品――マルチ・メディアを導入した音楽的旅程となりますが――をNHK交響楽団のために作曲します。これらはシャルル・デュトワの指揮の予定です。
――最後に、本日サントリーホールで、あなたと“マルコ&ポーロ”との素晴らしい旅路を待ちわびている日本の聴衆に一言お願いします。
譚:皆さんへの抱擁を待ち切れません。
――ありがとうございました。
“I wait in this place, in this City”
1998年6月18日、ファクシミリによる回答
聞き手:編集部
注:「九歌」(Nine Songs,1989):屈原の「楚辞」をテクストとした舞台作品で“祭儀オペラ(Ritual Opera)”との副題を持つ。