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洋上救急出動事例 No.3

 

「KEN JYO」号洋上救急出動

海上保安庁 特殊救難隊員 今井 圭祐

 

平成10年10月22日午前8時30分、羽田特殊救難基地に内線電話のベルが鳴り響いた。第三管区海上保安本部(以後三本部)から海難情報を入手、我々は出動準備に取りかかった。

概要は、八丈島南西約85海里付近海上において、ばら積み貨物船「KEN JYO」(パナマ船籍14,743トン)甲板員ロバート.M.チョンコ(フィリピン国籍30歳)が自室内で意識を失い、同船長が横浜船員保健病院に医療指示を受けたところ、早急に医師の診察を受ける必要があるとのことで、同日午前8時11分、横浜海上保安部に洋上救急の要請がなされたとのこと。

特殊救難隊員3名(以後特救隊員)が、横浜海上保安部に着岸中の巡視船「やしま」の搭載ヘリ(MH931)で救助に向かうことが決定し、救急資器材を官用車に詰め込み、羽田から横浜に向かい午前9時15分、巡視船「やしま」に到着した。

既に後部甲板上では、MH931が離陸可能な状態で我々を待っていた。我々は急いで機材を詰め込み、午前9時20分、MH931は「やしま」を出発し、午前10時30分、降りしきる雨の中MH931は八丈島に到着、燃料補給を行った。

該船からの情報では、海上は雨、北東の風40ノット、波高4.5m、北東のうねり5m、視程5と状況は良くはなかった。

三本部からの指示は、「固定翼機(MA951)で医師が到着するので、医師と共にヘリで該船に向かえ。」とのこと。

しかし、我々は患者のことを考え、このまま一刻も早く該船に向かいたい旨を三本部に伝えた。

午前11時15分、再度三本部からの指示で「医師は同乗させずに、直ちに該船に向かい、患者を収容、八丈島空港でMA951に引き渡せ。」となり、直ちに出発、該船に向かった。

午前11時38分、MH931は該船と会合した。幸運にも雨は止んでいたが、1万4千トンの船体が大きく動揺しており、依然、作業は困難な状況ではあったが、機長との打ち合わせにより、降下、吊り上げポイントは船橋の後側、ファンネル(煙突)の左側の約3m四方の位置で行うこととなった。

特救隊員3名がロープとカラビナを用いるリペリング降下をすることとなり、各々がヘリと船体が近づく一瞬のチャンスを見極め、指定ポイントに降下した。

救急救命士である私は、直ちに患者の容態確認に向かい、他の2名は担架の準備、ガイドロープの揚収を行った。

私が「ウエアー・イズ・ペイション!」と叫ぶと、船員達が要救助者の所まで案内してくれた。

 

 

 

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