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洋上救急出動事例 No.1

 

2件連続洋上救急の明と暗

塩釜海上保安部 巡視船ざおう

救急救命士 長谷川 堤司

 

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1件目の遠洋マグロ延縄漁船K丸の機関長であるKさんは、1月21日20時頃、金華山の東方約1,500海里において、作業中バランスを崩し転倒、椅子の足に股間を強打し、その後会陰部及びその周辺が大きく腫れ上がり、また尿の排泄が全く出来なくなってしまった。このため22日06時30分頃、塩釜海上保安部に対し救助要請があったことから、洋上救急が発動され、S病院のS医師とO総婦長が出動してくださることとなった。S病院には何度も洋上救急に出動していただいており、毎回迅速な対応をしていただいている。S医師とO総婦長は仙台空港から仙台航空基地のヘリコプターに搭乗し、仙台空港沖100海里おいて巡視船ざおうに乗船した。

K丸との無線交信によると負傷者は意識はハッキリしているものの、尿の排泄が全く出来ない、七転八倒していたKさんに対し、病院からの医療指示を受けたK丸乗組員の手で、腹部より膀胱に直接注射針を刺し尿の排出を行っているとのこと。尿は少量づつ排出されているものの、時々止まるなど思うようには排出されず、また腹部から直接針を刺して尿を排出していることから感染症を起こす可能性もあり予断の許されない状況にある。「ざおう」は無線連絡によりKさんの容体を観察しつつ、K丸との会合予定地点へと全速で航行を続けた。

24日13時30分、K丸との船間距離がヘリコプターによる吊り上げ救助の可能な距離となり、ざおう搭載ヘリコプター「しおかぜ」は強風の吹き荒れるなかK丸へと飛び立った。14時38分、金華山東方約1,050海里においてK丸と会合。現場海域は時化ており、116総トンのK丸は木の葉のように波間を漂う。しかし、「しおかぜ」のクルーは同じような状況から何度も傷病者の吊り上げを行っており、経験、技量とも十分、難なく吊り上げ救助を成功させた。15時55分、着船、この日の15時42分の日没ギリギリであった。負傷者KさんはすぐにS医師とO総婦長の待つ医務室に運ばれた。S医師は「今度は俺の番だ」とばかりに気合が入る。船体の動揺も、ものともせずO総婦長の手際のよい介助を受け、迅速かつ適切な処置を行っていく。腹部に小切開を加え、チューブを膀胱内に留置し、尿を排出させる。Kさんの顔にみるみる生気が戻って行くのが分かる。取りあえず一安心である。

 

 

 

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