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そして丘の山を見ながら走航していたら、午前9時40分頃、白煙を上げながら港から出てくる帆を降ろしたヨットが目に止まったが、別に気にもしなかった。エンジンを始動直後は不完全燃焼の為、白煙を出す事はよくあることだ。そして、再びイカ道具を下ろしてさびきをしていたところ、10〜15分位の時間が過ぎてもヨットの白煙が消えないどころか、さらに灰色に変った煙が一段と激しく立ち上がって来た。気を付けながら見ていたが、だんだん黒色の煙に変ったので、様子がおかしいと思い、イカ道具を上げて近づき、300メートルまで接近した。デッキ上で数人の男女が手を振っている姿が見えたのでさらに接近し、話を聞いたらエンジンルームから出火したので消火器を使用したが消えないとのことであった。私は機関室の燃料タンクに引火したら爆発する恐れがあると判断したので「すぐ私の船に乗りな。」と叫びつつ、乗組員を乗船させようと思い、ヨットの左舷に付けようとした。始めは私も冷静さを欠いていたせいか、船首を向けたため、こちらの舷が高く、手が手すりに掛るが下半身(足)が上がらず宙ずりになってしまった。これでは海に落ちてしまうと思い、「大丈夫だから落ち着いて」と言い聞かせながら、自船を後進させ、今度はヨットの左舷へ自船の右舷を横付けにした。ロープで船とヨットが離れないよう固定して、乗組員を乗船させ全員が乗った事を確認した。

救助した者は男4名女5名であった。ロープを離し、港に向け走航しつつ、稲取救難所(稲取漁協)や僚船に無線で救助概要を速報し、後のことは頼むと連絡したところ、既に他の船(稲取救難所所属)が現場に行って消火活動を行なっているが、爆発の危険があり、近付けない状況とのことであった。ヨットの乗組員の一人がヨットも曳いてほしいと言ったので、無線で連絡があった事情を話した。そしたら仲間の一人が「危険ですからヨットを放棄します。皆さん(応援に来ている船)たちも危ないから気を付けて下さい」と言ってくれた。私も「船は(ヨット)は金を出せば買えるが、命は買えないよ」と言うと、再びヨットは放棄しますからけがをしないように気を付けて下さいと言ってくれた。私もそれを聞いて安心して入港、接岸して全員を下船させた。その後、下田保安部の巡視船と稲取港所属漁船数隻との共同作業の成果もなく、稲取岬沖で沈没してしまった。

(注) 本件は、下田海上保安部長、本会会長表彰を受けています。

 

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炎上するヨットを消火する巡視船

 

 

 

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