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こうして従前は、これら排出禁止違反行為には、ほぼ同程度の刑罰が規定されており、法令間で刑のバランスが保たれ、各法の適条関係・罪数関係を考慮する際の基準の一つにも挙げられていた9。なお、港則法では、港及びその区域に(港内又は港の境界外1万メートル以内の水面における)バラスト、廃油、石炭から、ごみその他これに類する廃物をみだりに捨てる行為に、3箇月以下の懲役又は3万円以下の罰金を科しており、また水産資源保護法第4条を受けた各都道府県漁業調整規則には、水産動植物に有害な物を遺棄又は漏せつする行為に対して、6月以下の懲役又は10万円以下罰金が規定され、これらは現行でも変わっていない。

ところが、現在では、海防法が、故意の排出事犯の場合は1,000万円以下の罰金、過失の場合は500万円以下の罰金を科すとの改正を行い、さらに、廃掃法についても、みだりに産業廃棄物を捨てた者は3年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとし、一般廃棄物を捨てる行為については、1年以下の懲役又は300万円以下の罰金を科すとして、法定刑を大幅に引き上げる改正が行われ、排出事犯に対する刑罰間に刑の軽重の差が開いてきている。

このような状況において、各法令間の関係をどうとらえ如何に対処すべきかにつき考えると、港則法上の廃物等投棄禁止違反については、港則法の目的が港内における船舶交通の安全及び港内の整とんを図ることにあることから、港則法上の廃物等投棄禁止違反罪の保護法益は他の環境規制法令と一致せず、同種違反行為であっても刑種と重さの差異の説明はつく。また、都道府県漁業調整規則についても、その目的が水村資源の保護培養と漁業の発展に寄与にあることから(水産資源保護法第1条)、なお法の趣旨が他の環境規制法とは異なるといい得るであろう。

9 海洋環境関係法令間の罰則適用上の関係については、大國仁「海洋汚染規制諸法の罰則適用上の関係・罪数の問題を中心にして」海保大研究報告20巻2号20頁以下(1974)。水濁法と廃掃法の関係については、登石郁朗「水質汚濁防止法違反と廃棄物処理法違反の成否」研修545号78頁以下(1993)。立法改正による変更を理由に法定刑の軽重を基準に罪数関係を論じることの問題性に触れるものとして、原田國男「V水質汚濁防止法」『注解特別刑法3公害編』(青林書院、1985)239頁。

 

 

 

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