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平成8年の海防法の改正ではこの点は採り入れられなかったが、やはり環境保護に関する国際的・国内的動向を考慮しつつ、今後必要に応じて見直す可能性が残る問題である。故意かつ重大な汚染行為によって、人の身体や財産、その他船舶の往来交通に危険・実害を発生させた等の場合には、無害通航権を考慮しつつ、他の刑罰法規の構成要件に該当すれば、それにより処罰できるが、それ以外の深刻な環境汚染の場合に対処するためには、環境保護を立法目的に謳う海防法による厳しい処罰の道を開いておく必要もあるように思われる。海洋環境は一度失われれば、容易に元に戻らないものであり、その海洋の万物を育む重要性を鑑み、深刻な被害をもたらす重大な汚染行為を事前に防いで海洋環境の保護を図るために、国内法制度上他の環境規制法上の自由刑存置とのバランスも考慮して、海防法上も、自国船舶と故意かつ重大な汚染行為を行った外国船舶に対して、自由刑が選択できる可能性を将来の改正点のひとつとすべきではなかろうか。

なお、国連海洋法条約の国内法制化の一環として、同様の問題を抱えていた核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第61条の2の2第1項における核原料物質等海洋投棄違反、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律第30条の2第1項における放射線同位元素等の海洋投棄禁止違反については、領海内については外国船舶を含め自由刑を存置し(前者の法律第78条9号の2、後者の法律第53条5号の2)、領海外については、条約の制約を受けて、外国船舶に限り罰金刑としている(前者の法律第78条の4、後者の法律第53条の4)。

今後海防法上の規定の見直しを考える際には、外国船舶の取締り上の関係でどの程度の汚染行為を重大なものとするかの判断が必要であり、条約が違法排出によりもたらされる結果に着目して執行に段階を設けていること、条約上単に海洋環境の保護に関わる場合には沿岸国は管轄権の行使にとどまるが、漁業資源等天然資源の保護も考えられる場合については主権的権利の行使も可能であること、条約上船舶起因汚染と船舶を利用した不法投棄を区別していること等を鑑みて、排出規制に関わる規定も、我が国

 

 

 

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