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従って、自国船舶についても外国船舶についても共に平等に処遇して自由刑は課さないという考え方は、この旗国主義の観点を見落としたもので適切でないように思われる。

もっとも、条約の定める「十分に厳格な罰」とは必ずしも自由刑とは限らないであろうし、罰としてどういったものを考えるかについての決定は各国に委ねられているのであろうが、国内法の視点でみると、現行の他の環境関係国内法令上の排出事犯には自由刑があり、また、自由刑と高額の罰金刑のどちらが実際問題として抑止効を有するかについては必ずしも明らかではないものの、以下でみるように、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃掃法と略す。)では、平成9年時に不法投棄事犯については自由刑も含めて法定刑が引き上げられた事情も合わせて考えると、自由刑によらなくても罰金額の引き上げのみにより処罰の実効性を十分確保できるという見方にも疑問が生じる。また、過去において排出事犯に対しては罰金刑が処罰の中心であったという運用実態も、今後海洋環境の保護の必要性がますます重視され、環境保護の要求が高まるにつれて、自由刑も含めた厳罰化の方向に進んでゆくのではないかと予測されるので8、自由刑廃止の十分な論拠にはなり得ないように思われる。後述の(2)の観点も含めて考えると、少なくとも重大な環境汚染行為又は悪質(故意)かつ実質的な環境侵害を引き起こす行為については選択刑として自由刑を残すべきであったように思われる。

(ロ) 外国船舶に対する自由刑の廃止

つぎに、国連海洋法条約は、たしかに一方において外国船舶による違法排出に対する法令、執行、刑事手続、処罰上の制約を設けているが、しかし、少なくとも領海内における「故意によるかつ重大な汚染行為」に関しては、外国船舶であっても金銭罰以外の刑罰を科すことが条約上も許容されている(前出第230条第2項)。

8 罰金刑の枠内での話ではあるが、最近の罰金刑の実際の運用について、重罰化をうかがわせるもののひとつとして、港湾などへの廃船投棄の対する罰金が従前より高額化したことが報道されている。海上保安新聞第2427号平成10年12月17日3面。

 

 

 

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