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このように外国船舶の違反行為に対する沿岸国の処罰権能は条約上制限を受けるが、国内法の整理として、海防法の平成8年改正時に採られたのは、自国他国といった船舶の船籍及び規制を及ぼし得る海域の違いを問わず、一律、排出規制違反につき、故意の場合には罰金1,000万円以下、過失の場合には罰金500万円以下として、従前より罰金額を引き上げる反面、一律罰金刑のみを科して自由刑を廃止するという立法措置であった4

自由刑の廃止に際しては、条約上の制限の他、外国船舶に罰金刑しか科さないのであれば自国船舶の場合も罰金刑しか科さないという「法の下の平等」の理念と、自由刑によらなくても罰金額の引き上げにより処罰の実効性は確保でき、実際過去においても排出事犯に対しては罰金刑が処罰の中心として運用されてきたという実態等も考慮されたようである。また、罰金刑の引き上げによる罰則強化については、今まで低かった罰金額を諸外国における罰則の水準にまで引き上げることによって他国における罰則の実態とのバランスをとり5、外国船舶に対する罰則の実効性を確保する必要性があったことも考慮されたようである6

4 なお、船舶による排出違反行為以外の違反行為に対する罰則についても、海防法における罰則の体系のバランスを考慮してか、同様に自由刑が廃止され、罰金額が引き上げられた。

5 船舶による海洋汚染のような場合には、刑罰の国際平準化の問題がとくに顕在化する。違反主体の面でも排出場所の面でも国際化がみられるからである。なお、刑事司法の国際的標準化につき、具体例として、酒井匡「犯罪の国際化と刑事法」法学教室200号45頁、46頁(注13)(1997)参照。

6 条約の趣旨を受けての罰則規定の見直しに関する論説として、田中利幸「海上での犯罪規制と関連国内法の改正」日本海洋協会編『海洋法条約体制の進展と国内措置』第1号4頁以下(1997)参照。

 

 

 

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