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改正前の海防法の罰則規定では、故意による船舶等からの油、有害液体物質等及び廃棄物の違法排出については6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に、過失による場合には3月以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処し、自由刑を含んだ罰則を規定していた。そして、この規定は、刑法の場所的適用範囲を規定した刑法第1条及び他の法令の罪に対する同規定の適用を定めた第8条によって、属地主義に基づき、我が国領海内にある全ての船舶と、旗国主義に基づき、領海外にある日本船舶に適用されていた。つまり、海防法上の排出事犯に関しては、国内犯としての処罰が原則であり、ただ例外であったのは、海防法の改正前の旧63条により、我が国が鉱物資源の探査及び掘採に関して管轄権を有する公海の海底及びその下における鉱物資源の掘採に従事している外国船舶または海底鉱物資源の掘採のために設けられている海洋施設内では海防法上の違法排出禁止規定が適用される場合であった。

ところが、平成8年に排他的経済水域及び大陸棚に関する法律が制定され、その第1条が、「我が国が海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)に定めるところにより国連海洋法条約第五部に規定する沿岸国の主権的権利その他の権利を行使する水域として、排他的経済水域を設ける」ことを宣言し、第3条において、「次に掲げる事項については、我が国の法令(罰則規定を含む。以下同じ。)を適用する。一 排他的経済水域又は大陸棚における天然資源の探査、開発、保存及び管理、人工島、施設及び構築物の設置、建設、運用及び利用、海洋環境の保護及び保全並びに海洋の科学的調査 二 以下略」として、この規定により海洋環境の保護及び保全事項については我が国の法令(罰則を含む)を適用する旨が定められ、その結果、海防法上の違法排出禁止規定の適用範囲も領海を超えて排他的経済水域にまで及び、沿岸国主義に基づく排出事犯の国外犯処罰が認められることが明らかになった。

ところで、国連海洋法条約では、第56条第1項(b)において海洋環境の保護及び保全に関する沿岸国の管轄権を認める一方で、排他的経済水域内での海洋環境のための沿岸国の権限行使は、主権ではなくあくまで管轄権の行使にとどまるものである3として制限を加えている。そして、罰則規定に関しても、第230条第1項で、「海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制のための国内法令又は適用のある国際的な規則及び基準の違反であって、領海を越える水域における外国船舶によるものについては、金銭罰のみを科することができる」とし、また同条第2項では、前項の違反であって、「領海における外国船舶によるものについては、当該領海における故意によるかつ重大な汚染行為の場合を除くほか、金銭罰のみを科することができる」との制限を付している。

3 なお、国連海洋法条約第56条第1項では、天然資源の探査、開発、保存、管理、経済的な目的で行われる探査及び開発のための活動については主権的権利を、人工島、施設及び構築物の設置及び利用、海洋の科学的調査、海洋環境の保護及び保全については管轄権を、沿岸国が有することを規定する。この両者の区別については、村上暦三「海防法のEEZ内への適用」海上保安協会編『新海洋法の展開と海上保安』第1号78頁以下(1997)参照。

 

 

 

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