日本財団 図書館


海洋汚染に係わる罰則規定の問題点

海上保安大学校助教授  北川 佳世子

 

1. はじめに

 

海洋法に関する国際連合条約(以下、国連海洋法条約と略す。)の批准に伴う国内法整備の一環として、平成8年の海洋汚染および海上災害の防止に関する法律(以下、海防法と略す。)の改正時に同法の罰則規定の見直しが行われた。改正された点は、自由刑が廃止され1、罰金額が引き上げられたという点である。

この改正により、特別刑法の世界ではしばしばみられる現象であるが、海洋環境関係法令においても、同種の違反行為に対する刑種及び刑の軽重に法令間の大幅なばらつきが生じ、環境犯罪に対する処罰に差が生じるという状況が顕著になったが、このような状況をどう考えるべきであろうか。また、自由刑の廃止については、近時の環境保護要求の高まりや抑止効等との関連で、その当否が問われることになる。本稿では、平成8年の海防法の改正を振り返って、その問題点を探ることにしたい2

 

2. 条約による沿岸国権能の制約と海防法の平成8年度改正

 

以下では、海防法の平成8年度改正における罰則規定の見直しにつき、とくに排出規制違反行為に対する処罰規定に着目して、改正前との比較を行うこととしたい。

1 もっとも、第54条の2において罰金刑との選択刑として懲役刑が存置されているが、これは船舶から排出する有害液体物質の事前処理が基準値に適合するものであることを確認する指定確認機関が業務停止命令に違反した際に違反行為を行った当該機関の役員又は職員に対する罰則であり、船舶等自体の違反を問題にする海防法上の他の罰則とは性格が異なるものである。

2 なお、同一問題を扱ったものとして、拙稿「海洋汚染と排出規制─排出事犯をめぐる環境刑罰法規の問題点─」『海上保安と環境』193頁以下(中央法規、1999)。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION