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さらに、それぞれの状況で行使される執行権限の性質も、国際社会の責任分担であるのか、それとも、沿岸国の固有の利益保護のための権限であるのかという違いがあるということもできる(18)

そこで、5項と6項の汚染行為の性質に関わる要件と、証拠の程度などの要件との組み合わせがこれらの条項の想定するものとは異なるような事態が発生する可能性も現実には存在する。たとえば、1]5項の「情報提供拒否」「検査が正当と認められる」という要件は充足しているが、汚染は、6項の規定するような、沿岸の関係利益に損害をもたらすような性質であるとき、2]6項に規定する「明白で客観的な証拠」が、6項の規定するような汚染行為についてではなく、5項に規定する海洋環境への汚染であるとき、などのような場合には、物理的検査、船舶の抑留を含む手続き、のいずれの段階までの執行措置を沿岸国はとれるのか、それとも、情報提供要請にとどまるのかは、220条3、5、6項の文理解釈からは結論を導くことは困難である。このように、現実の事態が、同条の各項に想定された状況とは異なり、条文をそのまま適用できないとか、適用しても執行措置の違法性の認定が一義的には得られないときには、232条の「合理的に必要な限度を越える」という要件として、「比例性の原則」が適用される可能性が残るといえよう。

 

(1) 起草過程については、M, H, Nordquist, Editor-in-chief, UNITED NATIONS CONVENTION ON THE LAW OF THE SEA 1982, A COMMENTARY, p.377 et seq.

(2) Ibid., p.379.

(3) Ibid., pp.379─380.

(4) なお、海洋環境の損害についても、国連海洋法条約は、いくつかの関連規定をおいている。たとえば、深海底に関しては、139条があり、海洋環境損害一般についての235条1項が、国際義務の履行(responsibility)と国際法

 

 

 

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