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無論、排他的経済水域沿岸国の執行は、220条によって「任意」として認められているのであって、執行管轄権を行使するか否かの判断は、その意味で、沿岸国の裁量に委ねられている。けれども、執行管轄権を行使するのであれば、その行使には、国際法上の要件が厳格に定められているのである。したがって、232条の「合理的に必要な限度を越える」という要件は、権限濫用原則の具体的な内容とされるもののうち、比例性の原則により密接に関わってくるといえる。そして、「合理的に必要な限度」とは、具体的な汚染行為に対して、いかなる執行措置を取るのが比例性の原則にかなっているかという要件として適用されよう。

ところで、220条3、5、6項は、具体的な汚染行為の態様ごとに、沿岸国の取りうる執行措置の程度を定めている。これらが、すでに「比例性の原則」を具体化しているのであれば、「合理的に必要な限度」という要件の機能は、ここに大幅に吸収されよう。逆に、そうでなければ、「合理的に必要な限度」の要件の適用領域が確保されるし、また、国連海洋法条約300条に規定する、権利濫用禁止原則の趣旨をそこにみることもできよう。

220条3、5、6項は、情報提供要請、物理的検査、船舶の抑留などの措置を各々規定しており、この順で、執行措置の程度ないしは段階がすすんでいる。それでは、220条3、5、6項の規定する、これらの執行措置の対象となる汚染行為についても、やはりこの順で、その程度が大きくなっており、そうした意味において、これらの条文において、執行措置を行使する要件は、比例性の原則を具体化しているといえるのであろうか。

一方で、220条3項と、他方で、5、6項とを比較すれば、汚染行為の程度についても5、6項の場合が、3項の場合よりも著しく、その意味で、汚染行為の程度ととられる執行措置との比例性の原則が働くと解することはできる。けれども、こんどは、5項と、6項とを比較すれば、各々が対象とする汚染行為や汚染状況については、必ずしも「程度」の差があるというわけではなく、むしろ、「(国際)海洋環境の汚染」であるのか、それとも「沿岸の関係利益への損害」であるのかという、保護法益に相違があると解することもできる。

 

 

 

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