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あるいは、「違法な措置」または「合理的に必要な限度を越える措置」という要件と、「責めにきすべき」という要件とをあわせ読めば、前2者の客観的要件と、後者の主体的要件とが充足されれば、国際法上の国家の国家責任が発生するという解釈も、論理的には想定できる。つまり、過失や主観的要因の介在なく、執行措置が客観的要件に適合し、かつ、執行措置が国家に帰属することが確認されるのであれば、客観責任(無過失の責任)が発生するという解釈である。しかし、過失や主観的要因の要否という問題や、前2者を「客観的」要件といいきれるかは、とくに、「合理的に必要な限度を越える措置」の意味にも関わってくるので、こうした解釈をただちにとれるとはいえない。

(4) 「違法な措置」と「合理的に必要な限度を越える」措置

1] 「違法な措置」とは、232条第一文自体が規定しているように、なによりもまず、国連海洋法条約第12部第6節の執行に関する規定に違反する措置と解される。たとえば、排他的経済水域沿岸国が、排他的経済水域上で外国船舶に対して執行措置をとる状況では、220条が、情報提供要請(3項)、物理的検査(4項)、船舶の抑留その他の手続き(5項)の各々について、その行使の要件を定めている。それらの要件を満たさない執行は、232条の責任の対象となりうる。そうした実体的な要件に限らず、たとえば、224条は、執行措置を行う権限主体がみたさなければならない要件を規定しており、それを充足しない執行措置についても、やはり、232条の適用があるといえる。

これらの執行措置の要件は、海洋環境の保護および沿岸国の固有の沿岸利益と、船舶の航行利益とを衡量した結果として規定されている。ただし、とくに、5項にいう「信ずるに足りる明白な理由」や、6項にいう「明白で客観的な証拠」がある場合という要件については、一義的な解釈が容易ではない。この点は、他の執行措置に関する規定における「十分な根拠」という要件(106条、110条1項)などとも同様である。さらにいえば、それらと220条5項と6項で規定ぶりが異なることの意義や、国家に求められる注意の程度に差異があるかという疑問も生ずる。

 

 

 

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