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ない直接的な国家間請求という議論の形跡は見つけられないことなどから導かれる結論である。この点は、国連海洋法条約106条が、拿捕を行った国の旗国に対する責任を規定しているが、規定ぶりからして、国内救済手続きを尽くさなくとも、国家間請求が行われるという解釈もなりたつこととは相違している。

(3) 責任の帰属

232条第一文は、「いずれの国も」「自国の責めにきすべき」ものについて、責任を負うと定めている。そこで、「自国の責めにきすべき」の意味が問題となる。そもそも、原文では、damage or loss attributable to them(States、筆者)となっており、「帰する」のは、損害や損失であり、そうであるとすれば、同条は、いわゆる伝統的国家責任法の主体的要件のように、加害「行為」や加害行為に関連する国家の注意の懈怠などという「行為」が国家に帰属する場合に、国家が責任を負う、ということを定めているのではなく、損害や損失のうち、国家の「責めにきすべきもの」についてのみ、国家が責任を負うという意味になる。つまり、ここにいう「責めにきすべき」とは、責任の主体的要件を定めているのではなくて、むしろ、客観的要件を定めているといえる。けれども、そのようにとらえても、「責めにきすべき」というだけでは、具体的な内容は明らかではなく、その意味を理解することは困難である。

かりに、ここにいう「責めにきすべき」を、国家責任の主体的要件を定めたものと読むとしても、「国家に帰属する加害行為から発生した損害について、国家は責任を負う」という、主体的要件の原則を繰り返すにすぎず、やはり特別な意味をそこにみることは困難である。また、私人(船舶)が、執行措置をとった国の責任を追求する状況では、国内法にしたがってそれが行われる。その際には、「責めにきすべき」という要件を、国際法が規定しており、これを国内法により実現しなければならないということにもなる。

しかし、やはり、「責めにきすべき」という文言の具体的な意味が明らかではない限り、そうした国内法とのすりあわせの問題も、今のところ生ずるとはいえない(15)

 

 

 

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