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たしかに、232条の起草過程からすると、232条の対象は、私人(船舶)が、執行措置をとった国に対して責任を追求する場合を対象としており、そのための国内救済手続きを規定することに主眼があったともいえる。1973年の海底平和利用委員会における米国提案が、232条の第一文に類似の条文であったのを除けば、その後の各国からの提案には、「船舶」が主語で、船舶が賠償を受けられることを規定する条文や、232条の第一文と第二文とを分けないで結合したような条文があるし、単一草案でも、むしろ主眼は、国内的救済手続きの整備にあるような規定ぶりの条文となっているのである。その後、1976年修正単一草案において、232条のような第一文と第二にわけた規定ぶりがとられ、それが現行条文として残ったのである(13)

また、実際上の考慮として、船舶が沿岸国の執行措置により損害を被ったとしても、船舶の旗国が、沿岸国に対して国際法上の国家責任を追求するか否かは、国家としての政策決定に関わることであり、船舶の保護および救済としては、充分とはいえないこともある。そうした状況にかんがみて、232条は、特に、私人(旗国)が、執行措置をとった国の国内法体制において、かかる国の責任を追求し、救済を得るための規定であるという解釈も成り立つのである。

他方で、かりに232条では、たとえば旗国に対する関係で、沿岸国の国際法上の国家責任がその適用対象からはずれているとしても、沿岸国の国家責任は、国連海洋法条約304条及び慣習法としての国家責任法により追求されうることはいうまでもない。そうであるとするならば、232条の対象から国家の国際法上の責任を排除して解するとしても、その実質的な意義は、232条が、304条にいう「現行の規則」である国家責任の規則とは異なる責任規則を規定している場合に限って生ずるといえる。なぜなら、232条が、国家責任の「現行の規則」と同様の規則を規定しているのであれば、232条の対象から国家対国家の関係における国家の国際責任の問題は排除されており304条および慣習法上の国家責任法が国家間の国家責任の問題に適用される

 

 

 

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