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という規定ぶりからして、科学調査に関する責任規定と同様に、「条約に違反する措置」を意味すると解することができる。条約に違反する措置とは、とくに、沿岸国が外国船舶に執行措置を行使する場合に限定してとらえれば、国連海洋法条約220条に執行措置をとる要件が汚染行為の状況ごとに規定されているのであるから、そうした要件に従わない執行措置を、典型的には想定することができる。

それでは、「合理的に必要な限度を越える」という要件の意味と意義が何かが残る問題となるが、まず、「合理的に必要な限度」の内容が、やはり、220条の執行措置の要件と密接に関連することは否定できない。つまり、220条の執行措置の要件を満たしていなければ、「合理的に必要な限度」を越えることもある。が、このような場合には、上述のように、「違法な措置」として認定すればよいのであるから、「合理的に必要な限度」という要件をことさらに適用する必要もない。もっとも、「合理的に必要な限度」の具体的な内容を特定するにあたり、220条の執行措置の要件が重要な指針となることは否定できるわけでもない。

「合理的に必要な限度」という232条の要件は、結局、この文言が存在することの意義を損なわないように解釈しようとすれば、220条の執行措置の要件は満たしているにもかかわらず、それでも、「合理的に必要な限度」であったとは評価することができないような執行措置がとられた場合に、国の責任を認めて、それに起因する損害や損失を救済する根拠となると、解することになろう。そうした責任が認定される限りにおいて、違法な措置、「または」合理的に必要な限度をこえる場合が、責任発生要件として個々独立に規定された意義を見出すことができるのである。

ただし、上でみたように、232条の起草過程からは、「違法な」という要件は、1975年の法律家作業部会で規定され、単一草案では、一旦は削除されていたのに、1976年の修正統合草案において、再び規定されたものである。「違法な」という要件の加除についての議論は明らかではないが、こうした起草経緯からして、「違法な」という要件に、とりわけ「合理的に必要な限度を越える」という要件との区別を強調するような、それほど重大な意義が認められているとは考えられない。

 

 

 

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