日本財団 図書館


特定の実定的な国際義務の違反として、どの程度厳格な意義をもってきたかによっては、「違法性」要件と、「権限濫用」の法理との距離は、論理的にとらえられるほどには大きくはないともいえるのである(8)

そのような観点からすれば、特定の実定的な義務の違反という意味での、厳格な違法性とは区別される権限濫用のひとつの定式化として「合理的に必要な限度」をとらえるというよりも、むしろ、国連海洋法条約上の執行措置に関する規定に違反するといえるかは不明ではあるが、それでも、当該執行措置が、そもそもの執行権限の目的などに照らして、適当であるとは評価できないような場合に、232条においては、そのような執行に起因する損害や損失についての責任が規定されていると解することができよう。つまり、伝統的な国家責任法においては、とりわけそれが法実証主義のもとで、客観説として体系化されたおりには、国家主権に対して責任を追求するために、法的に非難の根拠が確立している必要があるということから、実定的な国際義務の違反という要件が、むしろ当然に要求されてきた(9)。けれども、国際義務が、慣習法の場合のみならず、条約であっても、その規定ぶりによっては解釈に大きな柔軟性をのこすような場合には、どの程度厳格に、「国際義務の違反」を定義できるかは、未知数である。しかも、国家責任の適用実践の歴史をみれば、必ずしも、明確に内容の確立した義務の違反ばかりが、国家責任の発生要件である違法行為として認定されてきたわけでもないのである(10)

そうであるとすれば、違法行為責任に限定されるのか、それとも権限濫用による責任観念にも余地があるかが問題ではなく、むしろ、権限濫用という法理を用いて、法がどのような場合にいかなる理由で責任の成立を認めているのか、そして、そうした責任観念や権限濫用の法理によって、法が維持し回復しようとする法の世界を理解することの方が、より重要になってくる。

そこで、232条に限定してみると、232条の違法性要件と権限濫用要件とは別個独立に規定されてはいるが、後者の要件がもつ機能は、具体的に後者の要件によって、責任が発生する場合を特定することによってこそ答えられることになる。「違法な措置」という要件は、「第6節の規定によりとった措置」

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION