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行措置をとることのできる要件については、国連海洋法条約220条が規定しているのであって、執行措置をとる要件それ自体の内容との関連において、あらためて検討する必要がある。そして、執行措置をとる要件と、「合理的に必要な限度を越える」という責任が発生する要件との関係は、後者が、232条の規定するもうひとつの要件である、「違法な」措置という要件といかなる関係にあるかという点とも関連してくる。そもそも「合理的に必要とされる限度を越える」という要件が、いわゆる「権限濫用」の一形態を規定しており、したがって、232条は、権限濫用による損害に対する国家の責任を規定しているといえるのか、という問題もある。

国際法上も、国内法と同じく、権利の濫用が議論されることがあり、国際法の先例においても、権利濫用原則の適用が確認できるという学説も多い(6)。国連海洋法条約も、300条において、権利濫用禁止の原則を、一般規定としておいている。国際法上の権利濫用禁止については、一方で、国内法上のいわゆる「権限濫用」法理と類似の原則が適用されている場合と、他方で、対等な権利が衝突するような状況で、利益調整の法理として、「権利濫用」原則が、一定の権利行使を制限する法理として機能している場合とがあると解されている(7)。232条の想定する状況は、国家が執行措置をとるという権限行使の態様が問題となるのであり、いわゆる権限濫用の法理が適用される可能性のある状況である。そこで、権限濫用の一形態としての「合理的に必要な限度を越える」という要件の適用があると解することはできよう。

かりに、232条が、「国際法上の」「国家の」責任を、権限濫用の法理に基づいて認めている規定であり、しかも、「違法な措置」という要件とは独立に、権限濫用の法理の適用を認めているとすれば、これは、国際法の国家責任の一般原則からすれば、かなり独自の責任法理の規定であるということにもなろう。なぜなら、権限濫用という要件により責任を認めるのであれば、特定の実定的な国際義務の違反という違法性要件を満たさない場合であっても、権限濫用という一般的な根拠を用いて、国際法上、国家の責任が発生することがありうるという結論になるからである。ただし、伝統的な国家責任法が、違法性を要件としていたことは事実であるとしても、その違法性の内容が、

 

 

 

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