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接続水域が設定された現在では、この事例は新領海法第5条により、接続水域で我が国の国内法令の違反を処罰するための取締を行った事例として把握されることになる17

ところで、接続水域内で行い得る規制については、国連海洋法条約第33条第1項において、沿岸国は、自国の領海に接続する水域で接続水域といわれるものにおいて、次のことに必要な規制を行うことができるとされ、(a)自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止すること、(b)自国の領土又は領海内で行われた(a)の法令の違反を処罰すること、と規定され、これを受けて、前出新領海法第4条第1項において、我が国は国連梅洋法条約第33条1に定めるところにより我が国の領域における通関、財政、出入国管理及び衛生に関する法令に違反する行為の防止及び処罰のために必要な措置を執る水域として、接続水域を設けると宣言され、同水域内で必要な規制を行うことができるようになった。しかし、接続水域の法的性格に関連して同水域での規制(control)はどこまで可能かについては、周知の如く、国際法上議論があり、接続水域における法令違反に対していかなる措置を執りうるか、接続水域からの追跡の場合に接続水域での法令違反を根拠にし得るかについての解釈に影響を与えている。

第一の立場は、接続水域は沿岸国主権を行使する場ではないので、同水域では立法管轄権は行使できず、ただ沿岸国の国内法令の実行性を確保する限りにおいて執行管轄権のみを行使し得るにすぎないとする立場であり、我が国領域内で違反を犯して出ていく船舶については、接続水域内で拿捕・逮捕といった司法警察上の強制措置をとることができるが、入ってくる外国船舶については、接続水域の段階では違反が行われたとはみれないのでせいぜい行政調査としての立入検査、警告、退去命令等の予防的な行政警察上の措置しか執り得ず、接続水域での違反について処罰規定を設けたり、処罰するための措置は執れないとする立場である18

17 安冨・前掲(注16)11頁。なお、新領海法制定前の記述ではあるが、田中利幸「追跡権または接続水域」日本海洋協会編『海洋法・海事法判例研究』(1992)55、55頁では、フェニックス号事件は領海からの追跡権行使に必要な要件を欠いた事例とされ、その理由としては、不法出国罪のような領海と接する海域で領海を越えることによってはじめて成立する犯罪というごく限定的な場合には、領海内で行われたのと同様に理解しうる可能性があるという解釈が示されている。

18 日本では、横田喜二郎『海の国際法上巻』(1959)397頁が挙げられる。

 

 

 

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