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すなわち、刑罰法規の法益保護思想に鑑みて、新領海法等でも公務員の職務の執行を妨げる行為が処罰されるのは公務の保護のためであり、公務員個人の生命・身体又は財産の保護のためではないという当該行為が禁じられる根拠、つまり当該行為が禁止されるのは何を保護法益として保護しているからかに着眼した解釈を行うべきである。具体的職務行為に対する妨害行為が同時に他の罪に当たる場合に限ってその適用を肯定する説に対しては、具体的な公務執行妨害行為が同時に他の犯罪を構成する場合という基準を用いて成立する犯罪を制限するのは、同時性基準が犯罪の性格を問題にするものではないがゆえに困難であると言い得るのではなかろうか。以上から、現行法制下においても6]と8]判例には疑問がある。

さらに、公務執行妨害行為に対して多種の刑罰法規の適用を認めると、接続水域又は排他的経済水域で当該行為が行われた場合にそれを理由とする追跡権の行使が可能になるのかについても問題になる。さらに、そもそも接続水域又は排他的経済水域で犯された公務執行妨害罪及び検査妨害罪を理由として追跡権を行使し、拿捕・逮捕して処罰し得るのかについても問題になる。とくにわが国へと入ってくる不審船に対して接続海域から検査妨害罪に基づき継続追跡を開始することについては消極的に解すべきであろう。なぜなら、接続水域からは前記4事項に限って追跡権の行使を認め得るのであり、また当該水域によって保護しようとする権利は検査の拒否によって侵害されておらず、当該水域からの逃亡によって違反防止のための行政警察活動の目的は達成されているとする指摘が当たるからである14

14 田中・前掲(注1)「海上での犯罪規制と関連国内法の改正」12頁。田中・前掲12頁では、さらに海上保安庁法による立入検査のように、検査妨害に対する罰則がない場合には、違反を理由に拿捕しても検査拒否自体を理由には処分できないことも指摘して、消極的な立場に立たれる。

 

 

 

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